投稿日: 2025年5月27日
更新日: 2025年5月31日
排出枠とは?カーボンクレジットとの違いをわかりやすく解説
📌 この記事でわかること
- GX-ETSにおける「排出枠」と「カーボンクレジット」の違い
- 政府が発行する無償排出枠と市場で取引される排出枠の関係
- GX-ETSにおける”適格カーボンクレジット”との違い、制度上の整理

目次
1.「排出枠」とは?
排出枠(Allowances)とは、一定期間に排出してよいCO2などの温室効果ガスの量を、政府が企業に対して割り当てる”排出許可証”のことです。 多くの場合、1トンのCO2に相当する単位で管理され、電子的に記録・取引されることが一般的です。
GX-ETS(排出量取引制度)では、制度参加企業には、事前に定められた排出上限(キャップ)が設定され、その範囲内で排出活動を行う必要があります。範囲を超えて排出した分については、①市場で取引される排出枠、あるいは②適格カーボンクレジットを調達して償却(相殺)することが求められます。
例:目標未達パターン
↓年間10万トンのCO2を排出している企業A
↓政府から9万トンの排出枠の割り当てを受ける
★この9万トン分は無償でもらえる。9万トンが企業Aにとって翌年の排出量の目標値
↓企業Aは排出量を減らせず、当該年度も前年と同じ10万トンを排出した
↓差分の1万トン(無償割り当て量でカバーできなかった分)を①あるいは②を調達して償却
例:目標達成パターン
↓年間15万トンのCO2を排出している企業B
↓政府から13万トンの排出枠の割り当てを受ける
★この13万トン分は無償でもらえる。13万トンが企業Bにとって翌年の排出量の目標値
↓企業Bは排出量を10万トンまで減らした(目標を超過達成)
↓差分の3万トン(無償割り当て量を使わなかった分)を市場を通じて他社に売却可能
つまり、「排出枠」と一口に言っても、以下の2つのタイプがあります:
- 無償排出枠:
政府が特定の条件下で無料で配布(排出量取引制度においては”割り当てる”という言い方をします)。”無償割り当て量”も同義語です。- 市場で取引される排出枠:
他社が余らせた枠を購入するなど、排出枠の”売買”が可能
この仕組みは “キャップ&トレード(Cap and Trade)” と呼ばれ、全体の排出量に上限を設けつつ、企業間で経済合理性を持って削減目標を達成することを目的としています。
出典:内閣官房GX実行推進室『GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)』P14
2. カーボンクレジットとの違い
一方で、カーボンクレジットは、温室効果ガスの削減・吸収量を、第三者的に証明した証書であり、排出枠とは明確に異なる制度で発行されるものです。例えばJクレジット制度事務局により発行されるJクレジットや、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)によるJブルークレジット®などがこれにあたります。
そして、GX-ETSにおいて、(市場で取引される)排出枠と同様に、不足分を補う手段として利用できるカーボンクレジットのことを適格カーボンクレジットと呼びます。
GX-ETS第2フェーズにおける適格カーボンクレジットは、現状、Jクレジットと二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism ,JCM)のみです。
出典:内閣官房GX実行推進室『GX実現に資する排出量取引制度に係る論点の整理(案)』P21
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3. GX-ETSにおける「排出枠」「適格カーボンクレジット」の制度的な違い
まとめると以下の通りです。
項目 | 排出枠(Allowances) | 適格カーボンクレジット |
---|---|---|
発行主体 | 政府 | 認証スキーム運営主体(例:Jクレジット制度事務局) |
単位 | t-CO2e | t-CO2e |
入手方法 | 無償割り当て、または市場での購入(運営:GX推進機構) | 創出者との相対取引、東京証券取引所カーボン・クレジット市場など |
使用目的 | GX-ETS義務履行 | GX-ETS義務履行、温対法など別制度や自主的な取り組み等 |
価格形成メカニズム | リバースオークションなど制度的措置(政府主導) | 市場メカニズムによる(※実際は排出枠の価格形成の影響を受ける) |
4. 実務上の混同に注意:文脈に応じて言葉の意味が変わる
実務では、「排出枠」と「クレジット」という言葉が混同されるケースが多く見られます。
特に:
- 「排出枠」
→政府からの「無償割り当て枠」である場合や、どこかの企業が余った枠を売った「市場流通されている枠」を指すことも - 「GX-ETSで使えるクレジット」
→排出枠の代替として使える特定のカーボンクレジットのこと(=適格カーボンクレジット)
つまり、制度の理解や文脈を明確にしたうえで用語を使うことが、社内外での誤解防止につながります。
5. まとめ|両者の違いを正しく理解し、最適な対応方針を
排出枠とカーボンクレジットは、ともに1t-CO2e単位で数えられる環境価値ですが、制度上の役割や取引ルールは大きく異なります。両者の違いを押さえることが、GX-ETS第2フェーズに向けた調達戦略の立案や今後の対応準備を進めるうえで重要な土台となります。
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