投稿日: 2025年5月30日
更新日: 2025年5月31日
GX-ETS第2フェーズにどう備える?283社調査で見えた3つの対応論点
📌 この記事でわかること
- GX-ETSに関する大規模調査(東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室共同)の概要
- GX-ETS第2フェーズに備えるための「排出枠の価格見通し」「クレジットの需給ギャップ」「品質リスク」など重要論点に関する考察
- 他社の対応方針・ガイドライン策定動向
- 企業の方針策定に使える調査結果の具体的活用方法

目次
1.GX-ETS第2フェーズへの対応は「制度理解」だけでなく、 「実務レベルの問いに対する答え」が求められる
GX-ETS(排出量取引制度)は、2026年度から第2フェーズとして本格稼働が予定されており、GXリーグ参画企業を中心に、制度への対応準備が進められています。
しかし、制度概要だけを把握しても、戦略設計の精度には限界があります。
「排出枠はいくらになりそうなのか?」
「自社にとって必要な適格カーボンクレジットは十分確保できるのか?」
「グリーンウォッシュを避けるにはどんな基準で調達すればいいのか?」
こうした実務レベルの問いに対する答えを持っているかどうかが、GX-ETSにおける「対応方針策定の質」を大きく左右します。
2. 調査概要|国内最大規模、283社の定量・定性データを分析
exroadと東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室は、GX-ETSやクレジット活用に関する国内最大規模の共同調査を2025年3-4月に実施。調査対象はGXリーグ参画企業を中心とした企業・団体で、有効回答数は283社に上りました。GX-ETSおよびカーボンクレジット市場に関して、ここまで網羅的かつ大規模な調査が行われたのは、官民を通じても本件が初めてとなります。
- 調査期間:2025年3月10日〜4月11日
- 対象領域:Jクレジット、JCM、海外クレジット、パリ協定第6.4条クレジットなどの需給動向、GX-ETSにおける排出枠および適格カーボンクレジットの必要量など
- 調査方法:設問+自由記述による定量・定性形式
- 目的:GX-ETSの制度設計、クレジットの需給、価格形成、品質リスク、調達戦略の実態把握
3. GX-ETSの対応方針策定において重要な3つの論点
本調査からGX-ETS第2フェーズ義務対象企業の担当者にとって特に示唆深いポイントを3つ紹介します。
3-1. 排出枠価格は2030年に8,000円超も想定される
各企業の回答によれば、GX-ETS第2フェーズにおける排出枠の価格は:
・2027年時点:最多回答は「4,001〜6,000円/t-CO2e」
・2030年時点:最多回答は「6,001〜8,000円/t-CO2e」および「8,001円/t-CO2e以上」で拮抗
つまり、中期的に価格上昇を想定する企業が多数派ということです。排出枠のコストは調達戦略に大きな影響を与えるため、3〜5年先のコスト試算においては、想定レンジの幅をしっかり設けることが不可欠です。
💡 排出枠とは?カーボンクレジットとの違いをわかりやすく解説
3-2. 年間278万トン以上──供給不足への備えが必要
調査では、GX-ETS第フェーズ2(2026〜2030)における年間の排出枠・クレジット需要量が少なくとも278万トン以上に達するという見通しが得られました。
一方、Jクレジット制度事務局の公表データ1によれば、2023年~2024年の実績では年間100万トン強の創出量であり、供給と需要にギャップがあることは明らかです。
この需給ギャップに備えるには:
- キャップ&トレード制度の中でうまれる排出枠量の見立て
- 適格カーボンクレジット(Jクレジット・JCM)に関する定常的な情報収集
- 信頼できる供給者・創出プロジェクトとの早期接点
- 価格変動リスクへの分散対応
など、戦略的な調達方針の立案が求められます。
なお、exroadはカーボンクレジットの創出には関与しておらず、極めて中立的な立場から、調査結果に基づき得られた事実と、それに基づく見解を提示しております。したがって、本コラムは「クレジットを創出している立場から、需要家の不安を煽り、売りを促進したい」といったバイアスは一切排除された内容となっています。
3-3. グリーンウォッシュを防ぐ調達基準が企業価値を守る
設問「Jクレジットを調達する上での課題感は何か」では、実に70%の企業が「クレジットの品質に起因するグリーンウォッシュのリスク」を最大の懸念点として挙げています。特に、大企業や上場企業にとっては、調達プロセスの透明性・信頼性がレピュテーションリスクにも直結します。
実際に、キリンホールディングス株式会社は2025年3月に「カーボン・クレジット方針」を策定し、対象用途・調達基準・検証体制を明文化しています2。
こうした例に倣い、自社の調達ポリシーを社内・社外に対して明示することは、説明責任と信頼確保の両立に有効です。
4. 調査レポートの活用法|社内提案・意思決定に使える一次情報
GX-ETSの本格運用が近づく中で、企業には制度の概要理解にとどまらず、 「自社にとっての最適解」を見出すための方針策定が求められています。今回の調査から見えた3つの論点は、いずれも制度設計・市場形成・信頼確保といった観点から、実務的に極めて重要なテーマです。では、こうした複雑な前提条件を踏まえながら、実際に企業はどう備えるべきなのでしょうか?
その判断を支える材料として、本調査レポートは以下のような用途で活用できます:
- GX-ETSの制度対応における前提データとして
- 他社動向・実務課題のベンチマークとして
- 調達方針や社内ガイドラインのドラフト材料として
- 経営会議・社内報告書類への引用ソースとして
実務担当者だけでなく、経営企画・サステナビリティ推進・調達部門間などでの共通認識の形成にも最適です。
脚注
1:J-クレジット制度事務局『J-クレジット制度について(データ集)2025年5月』P4
2:キリンホールディングス株式会社『「キリングループ カーボン・クレジット方針」を策定』