投稿日: 2025年7月6日
更新日: 2025年7月13日
【25年7月】カーボンクレジット価格ガイド|Jクレ・海外・ETS
昨今、カーボンクレジットの創出事業検討やGX‑ETS対応等に際して、カーボンクレジット・排出枠の価格が戦略策定における重要情報となっています。本記事では、「Jクレジット」「JCM」「海外クレジット」「ETS排出枠」の価格を体系的に整理・提示し、カーボンクレジットの事業開発に取り組んでいる方・新規事業として検討を始めている方や、企業の経営企画・サステナ推進部門が見通しを持った調達判断を行えるようサポートします。

目次
1. Jクレジット価格の最新動向
1-1. プロジェクトタイプ別価格帯(2025年7月時点)
東京証券取引所カーボン・クレジット市場が公開している主なプロジェクトタイプ別の価格推移(トン‐CO2)は以下グラフの通りです。
・期間:2024年1月1日‐2025年7月6日
・取引があった日は終値を、なかった日は翌日の基準値段を表示

出典:東京証券取引所『カーボン・クレジット市場日報』よりエクスロード作成
- 再エネ(電力)
24年1月時点では3,000円前後でしたが、25年7月時点では6,000円まで上昇しています。 - 省エネルギー
24年1月時点では1,600円前後でしたが、25年7月時点では4,700円まで上昇しています。 - 森林
24年1月時点では6,100円前後でしたが、25年7月時点では4,650円~5,600円前後で推移しています。 - 農業(中干し期間の延長)
25年1月時点では5,000円前後でしたが、25年7月時点では3,600円まで下降しています。
※本売買区分は25年1月6日に新設
1-2. Jクレジット価格推移についての考察
なぜ再エネ(電力)と省エネルギーの価格がこれほどまでに上昇しているのでしょうか?
まず、前提として、カーボンクレジットの需要量は制度・規制によって大きく左右されます。例えば、少し過去の例を見てみても、2015年11月19日以降、第一約束期間の京都メカニズムクレジットが温対法に使用不可になり、また、温対法の一部改正により報告対象の事業者数が増加(139社→306社)しました。これを受けて、温対法への対応目的のJクレジット無効化量は、2015年では7万トンだったのに対して2016年には70万トンと約10倍にまで跳ね上がりました。
出典:環境省『第一約束期間の京都メカニズムクレジットの取扱いについて』
出典:一般社団法人産業環境管理協会『地球温暖化対策推進法 改正情報』
2024年1月以降には、GX-ETS第2フェーズの制度設計の具体化が進み、適格クレジットがJクレジットとJCMに限られたこと(Verraなどの海外認証機関のクレジットは非適格)や、SHK制度のガス事業者の排出係数の開示が始まり、ガス会社からの買いが入ったことが影響して再エネ(電力)の価格が高騰していると考えられます。また、CDPやRE100などの認証を取得している日本企業の数が多く、これらへの報告を使途として調達をしている層がいることも一因でしょう。
省エネルギーは、もともと再エネ(電力)よりも安価だったため、適合する制度・規制がまったく同じではないものの、再エネの高騰を受けて買いの圧力が高まっていると考えられます。
これまでOTC(Over The Counter,相対取引)が中心だったJクレジット市場に、東京証券取引所カーボン・クレジット市場が開設され、価格の透明性が向上したことも一定影響があると推察されます。
また、供給に目を向けても、Jクレジットは将来的に不足する可能性があります。
Jクレジットの供給量は、直近数年では年間100~150万トンで推移しています。他方で、東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室とエクスロードの共同調査によれば、GX-ETS第フェーズ2(2026〜2030)における年間の排出枠・クレジット需要量が少なくとも278万トン以上に達するという見通しが得られています。
参考:日経GX『GX-ETS義務化44社、30年目標「300万t未達」 東証調査』
このように、制度・規制面、さらに需給バランスの観点から見ても、基本的には、Jクレジット価格は上昇基調が続くと予想されます。
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1-3. Jクレジットの価格予測
2030年の中間目標に向けて、Jクレジットの価格は自社のGX戦略を立てる上での重要情報です。先述の東京証券取引所カーボン・クレジット市場整備室とエクスロードの共同調査によれば、GX-ETS第2フェーズにおける排出枠価格は、2030年に8,000円超も想定されるといった結果が出ています。
・2027年時点:最多回答は「4,001〜6,000円/t-CO2e」
・2030年時点:最多回答は「6,001〜8,000円/t-CO2e」および「8,001円/t-CO2e以上」で拮抗
上記はあくまで排出枠(≠Jクレジット)の価格予測ですが、GX-ETSの枠組みにおいては参考情報となるでしょう。排出枠の価格上昇と連動し、適格カーボンクレジット(Jクレジット・JCM)にも影響が出ると考えられます。
排出枠とカーボンクレジットの違いについては下記コラムで解説されているので合わせてご覧ください。
2. 二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism,JCM)の価格
2-1. JCMとは
JCMは、日本とパートナー国の間で、日本の企業や政府が技術や資金の面で協力して対策を実行し、得られるGHG削減・吸収量を、両国の貢献度合いに応じて配分する仕組みです。日本への削減・吸収量の移転は、パリ協定6条に沿って行います(クレジット量は保守的に算定し、両国政府が承認。日本はNDC達成にカウントし、相当分はパートナー国の削減・吸収量に計上しない)。

2-2. JCMの価格
結論から言うと、JCMは、基本的にOTC(Over The Counter,相対取引)で売買されるため、価格の実態を掴むことは難しいのが現状です。
ただし、JCMはGX-ETSでは適格クレジットとして扱われることから、排出枠やJクレジットの価格と比較して極端に差がでることが考えにくいと思われます。また、相当調整によるプレミアムがどれくらい付くのかは今後注目したいポイントです。
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3. 海外カーボンクレジットの価格
まず前提として、海外カーボンクレジットの価格と言っても、プロジェクトタイプや認証機関、ヴィンテージ、国、CCPsラベルの有無などの条件次第で一概に言えない、ということを押さえておきましょう。その上で、参考となるデータを説明していきます。
3-1. ボランタリークレジットの平均価格
米国の非営利団体で、自主的炭素市場の動向をリサーチしているEcosystem Marketplaceは、毎年”State of the Voluntary Carbon Markets”と呼ばれるレポートを発行しています。
2025年5月29日に発行された2025年最新版のレポートによると、2024年のボランタリークレジットの平均価格は$6.34/tCO2eでした(下図参照)。ただし、この結果の読み取りには注意が必要です。先述の通り、海外カーボンクレジットの価格は条件次第で一概には示せません。$6.34/tCO2eは、CDM(Clean Development Mechanism,クリーン開発メカニズム)などの現状は使途が限定的なクレジットも含んだ平均価格であるため、いわゆるRemoval(除去・吸収系)クレジットやその他プレミアムが付いているものは、より高単価で取引されていることを認識しておきましょう。

出典:Ecosystem Marketplace『State of the Voluntary Carbon Markets2025』(以下本章グラフも同様)
3-2. ボランタリークレジットのプロジェクトタイプ別平均価格
次に、プロジェクトタイプ別の価格は以下となります。

ちなみに、プロジェクトタイプの日本語訳は以下の通りです。
カテゴリ(英語) | カテゴリ(日本語) | 2024年 価格(USD/tCO₂) |
---|---|---|
Forestry and Land Use | 森林・土地利用 | 9.27 |
Renewable Energy | 再生可能エネルギー | 2.67 |
Chemical Processes / Industrial Manufacturing | 化学・製造業プロセス | 3.66 |
Household / Community Devices | 家庭・地域向け機器(クックストーブ等) | 7.30 |
Waste Disposal | 廃棄物処理 | 6.72 |
Agriculture | 農業 | 7.66 |
Energy Efficiency / Fuel Switching | エネルギー効率・燃料転換 | 3.05 |
Transportation | 輸送 | 3.24 |
Forestry and Land Use(森林・土地利用)カテゴリについて、さらに細かいクラスター別の価格は以下の通りです。2024年の価格は、ARR(植林)が$20.44、Blue Carbon(ブルーカーボン)が$29.72と、他のクラスターと比較して相対的に高いことがわかります。

3-3. ボランタリークレジットの平均価格 -Removal(除去・吸収系)vs Reductions(回避・削減系)-
Removal(除去・吸収系)とReductions(回避・削減系)という観点でも見てみると、Removalは$19.50、Reductionsは$4.05と5倍近い価格差があることが示されています。

💡参考:
カーボンクレジットについて、将来の市場規模・価格水準などの公開情報(合計76ソース)を集約し、参考値・レンジを提示したコンセンサス調査レポートはこちらから無料ダウンロードできます。
3-4. CORSIA適格クレジットの価格
CORSIA(Carbon Offsetting & Reduction Scheme for International Aviation)とは
CORSIAとは、国際航空の温室効果ガス排出を抑制するための国際制度です。国際民間航空機関(ICAO)が運営し、2024年から第1フェーズが開始されています。航空会社が排出量を削減するための技術や運航改善を行いつつ、超過分をカーボンクレジットでオフセットすることで、2020年以降の国際航空によるCO2排出量を2020年レベルで維持することを目指しています。ちなみに、読み方は「コルシア」です。
CORSIA適格クレジットとは
CORSIAで使用可能なクレジットは「CORSIA Eligible Emissions Units/EEUs」と呼ばれます。2025年7月時点の最新状況は以下の通り。

出典:ICAO『CORSIA Eligible Emissions Units Informal Summary Table
CORSIA適格クレジットの取引価格
2024年末、IATA(国際航空運送協会)とガイアナ政府が共同開催した初のEEUs調達イベントでは、航空会社32社が参加しました。Phase1で利用可能なART(ART Architecture for REDD+ Transactions)の管轄REDD+クレジット100万トンが対象で、11社が$21.70/tCO2eでEEUsを購入。日本の航空会社であるANAやJALも同クレジットを調達しています。
出典:IATA『IATA Follows Successful Guyana CORSIA EEU Procurement Event with Second Event in Q1』
ちなみに、CORSIAを含めた海外制度や国内カーボンクレジット市場を概観できる「カーボンクレジット市場カオスマップ2025」も参考になります。

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4. ETS(排出量取引制度)の排出枠価格
4-1. 主なETS導入国の排出枠価格推移
EU-ETSの排出枠は、 2018年以降、特に2021~2022年にかけて急騰し、100ドルを超える高騰期もあったが、2024年は60~80ドル/トンの価格帯で安定的に推移。2024年は、カナダ、中国、韓国などではほぼ変化はなく、全体的に価格は安定して推移しています。

出典:ICAP『Emissions Trading Worldwide: ICAP Status Report 2025』
4-2. 世界の排出量取引制度レポート2025 要旨
ICAP(International Carbon Action Partnership,国際炭素行動パートナーシップ)が2025年4月8日に発表した”世界の排出量取引制度レポート 2025(Emissions Trading Worldwide: ICAP Status Report 2025)”の日本語サマリー版はこちらから無料ダウンロードできます。 毎年発行されるの本ICAPのレポートは全体で270ページ(英語)を超えるため、読み込むのが中々難しい、という声にお応えしています。 排出量取引制度の動向を把握しておきたいサステナビリティ推進部やカーボンプライシング領域従事者の皆様におススメの資料となっております。
※本無料版は前半3ページ目まで
5. まとめ
カーボンクレジットや排出枠の価格はJクレジット、JCM、海外クレジット、ETSなど、整理しながら理解・キャッチアップする必要があります。エクスロードの“排出量取引制度・カーボンクレジット専門データベースサービス”ではこれらの情報を網羅的に把握することができます。
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