CARBON JUNCTION vol.14
良く言えば好奇心旺盛、悪く言えばミーハーな学生でした。話題の分野で面白そうという安直な動機で大学では国際金融と開発経済学の二つのゼミに入りました。国際金融を選んだのはリーマン・ショック前夜の熱狂のなか、投資銀行やファンドで働くOBをメディアでよく目にしたため、開発経済学を選んだのも当時BRICSへの関心が高く、高成長を続ける中国やインドの経済に単純に興味を持った程度の理由からでした。
1ドルで救える命はあるが、そのために1ドルを出す人はほとんどいない
大学時代の学びの多くは失われてしまいましたが、今でも強く心に残っているのが開発経済学のゼミの恩師の「1ドルで救える命はあるが、そのために1ドルを出す人はほとんどいない」という言葉です。いかに社会的な便益が大きくても、必要な資金が必ずしもそこに向かわない現実を表す言葉として、今でも強く印象に残っています。
発展途上国で有望なプロジェクトが資金難にあえぐ一方、リーマン・ショック前夜のサブ・プライムローンバブルのもと返済見込みがないプロジェクトに多額の資金が殺到する。その、ねじれを小さくし、経済と環境の持続的な好循環を促す手段としてカーボンクレジットに関心を持つようになりました。
就職活動の時期がリーマン・ショックの影響を強く受け不安もありましたが、ファンドやインフラ会社などからお声がけをいただきました。ファンドの給与には心が揺らぎましたが、就職の相談をした祖父からの「その仕事は何を生み出すのか?」という問いに自分で納得のいく答えを見いだせず、最終的には生活の基盤を支えるインフラに貢献できればと電力会社に入社することとなりました。
電力会社では、大規模電源からの電力調達や経営戦略の検討が主な業務でしたが、一部ではあるものの、クレジット関連の業務も担当しました。当時のクレジット調達は調達規模も小さく、新規配属された部員の見習いの仕事という位置づけでしたが、学生時代から関心を持っていたクレジットの実務やルールに触れたことは、その後の自分の土台になっています。
その後の政府系シンクタンクへの出向では、官公庁や他のエネルギー企業の方々と一緒に仕事をする機会にも恵まれました。調査を通じ、欧米において人材が政府・金融・エネルギー企業の間を回転ドアのように行き来し、交流する中で新たな制度やイノベーションが生まれる現場を目の当たりにし、エネルギー業界に身を置く自分が金融の世界で働くことが、業界全体の発展につながるのではないか?と考えるようなりました。そこでタイミングよく、現在の会社でGX分野の部署の立ち上げの話があり、縁あって加わることになりました。
現在は、カーボンクレジットをはじめとする脱炭素の取り組みに携わる企業や政府・自治体の皆さまと対話しながら、リスクやビジネスモデルを支えるリスクソリューションの開発に取り組んでいます。経済と社会課題の両立は何年経っても難問ですが、多くの素晴らしい方々との出会いに感謝しつつ、解を探していきたいと思います。

“シンクタンク出向時、エネルギー政策の調査業務にて”
東京海上グループの取り組み
・カーボンクレジットの購入企業向け専用保険
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/240719_02.pdf
・カーボンクレジット対応費用保険
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/250226_01.pdf
・カーボンクレジット創出企業向け人権リスクに関する支援メニュー
https://www.tokiomarine-nichido.co.jp/company/release/pdf/250812_01.pdf