CARBON JUNCTION vol.13

学生の頃からずっと「科学の力で世の中を変えたい」と思っていた

私は自動車産業の街・愛知県で生まれ、幼い頃から「技術で社会を変えたい」と思ってきました。中高生の頃に、電気自動車の波が押し寄せ、「100年に一度の大変革期」と言われる時代の変化を肌で感じ、自分も何か技術を通じて環境に貢献したいとの思いから、大学・大学院ではリチウムイオン電池の研究に取り組みました。

新卒として入社したトヨタ自動車では、法規認証部で世界各国の排ガス・燃費規制の政府渉外に携わりました。技術だけでなく、国によるルールメイクや社会の仕組みそのものが未来の脱炭素に影響することを実感しました。また、自社の社有林を活用したカーボンインセットのプロジェクトにも関わり、森林のCO₂吸収量を工場の排出量削減に結びつける実務を経験し、業務を通じて実際にCO₂削減に貢献できることにやりがいを感じていました。

転機となったのは、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次報告書を見たことでした。

2050年までのカーボンバジェットが尽きつつあり「これからの10年間の取り組みで2050年の未来が決まる」と目にしたときの衝撃を今でもよく覚えています。

これまで遠い話だと思っていた2050年のカーボンニュートラルが、今まさに行動しなければ間に合わない問題だと、自分ごととして痛感しました。ちょうどこの頃に子どもが生まれ、「自分が仕事を通じて社会と関わる意味」を考えており、「このままのやり方では間に合わない、もっと大きなイノベーションを残さなければ」と強く感じた瞬間でした。

TOWINGとの出会いと脱炭素の『現場』へのこだわり

その時に出会ったのが、名古屋大学発スタートアップであり、現職のTOWINGです。微生物で高機能化したバイオ炭「宙炭（そらたん）」は、農地の土壌改良と炭素固定を同時に実現する技術です。TOWINGを知ったとき、この技術は必ず脱炭素の未来に貢献できると確信し、自分の原点に戻って「科学の力で世の中を変える」ことにもう一度トライしてみようと考えました。

現在は、宙炭を活用したカーボンクレジット創出や、大手食品・飲料企業との協業による国内外の原料産地の脱炭素化プロジェクトに取り組んでいます。ルールが未整備な中で現場を動かす難しさはありますが、それが逆に挑戦の面白さであると感じています。

業務で特に印象深かったのは、農家さんと初めて対話をしたときのことです。農家さんにとって土は収入の根幹であり、慎重に扱われる神聖な資源です。「炭素削減のためになぜ農地にバイオ炭を撒かなければいけないのか」と最初は理解が得られないこともありました。しかし、何度も宙炭の価値を伝えるうちに、少しずつ理解が得られ、今では同じ目線で協力いただける農家さんが増え、宙炭の利用が広がっています。

私は特に『現場』での脱炭素にこだわり続けたいと考えています。ルールや理論を理解するだけでなく、農家さんや地域企業と向き合い、地道な努力の積み重ねでCO₂削減を実現すること。その両方があって初めて、未来を動かす力になると信じています。

“2025年4月に開催したバイオ炭カンファレンス「Global Biochar Exchange 2025」にて。後列向かって左から4番目が筆者”