Carbon Junction 私と炭素市場との交差点

CARBON JUNCTION vol.1

投稿日: 2025年10月3日

株式会社exroad | エクスロード
代表取締役CEO
木村圭佑

【略歴】 2008年三菱商事入社。カーボンクレジットやEV、リースの事業開発に従事。2018-2020年には在英国子会社に経営企画/事業開発担当取締役として駐在。2022年にexroadを創業。

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学生時代、アルバイトで貯めたお金を握りしめて、バックパックひとつで世界を旅した。特にアセアン諸国をまわったときの光景が忘れられない。経済成長の勢いが町にあふれ、高層ビルや高速道路が次々と建設されていた。一方で、排気ガスでかすむ空や、道路脇に積み上がるゴミ山を目にして、いつか環境に関わる仕事がしたいと漠然と思うようになった。就職活動では、総合商社を中心に回った。面接では、旅先での体験談を話しながら、「環境に関するグローバルな仕事がしたい」と説明していた。ちょうどEU-ETSが始まった時期でもあり、排出権ビジネスに強い関心を持っていた。幸いなことに、いくつか内定をいただき、2008年に三菱商事へ入社。配属は自動車事業本部だった。

初めての仕事は、中南米への日本車の輸出。悪路に強いピックアップトラックの売れ行きが好調だったが、燃費は悪かった。その頃ちょうど黒木亮さんの『排出権商人』を読んでいたこともあり、「車の排出もオフセットできたらいいのに」と考え始めていた。その後、リーマンショックで輸出業務がほぼなくなったとき、時間ができたのでEVを活用したクレジット創出のアイデアを資料にまとめて部長に提出した。もちろん、若手の甘い企画が事業になるわけもなく、きれいにスルーされた。とはいえ、その後も自動車ビジネスには本気で向き合った。中南米への出張を何度も重ね、ブラジルへの語学研修にも行かせてもらった(出張だけで相当排出したと思う)。生産から販売、ファイナンスまでを含む幅広い商流のなかで、現場で得た知見は今でも自分の財産である。

”語学研修で滞在していたブラジルで、現地の友人たちと撮った一枚(約15年前)。今やCOP30開催国となったブラジルでの経験が、気候変動への関心を強める契機にもなった。(右から2人目が筆者)

まさか入社当時に熱望していた分野に、10年以上たって舞い戻るとは思ってもいなかった。

英国に赴任したときには、自動車事業に加えて、EVや再エネ電力を組み合わせた新規事業の検討にも取り組んだ。だが、そこにコロナが直撃。事業開発どころではなくなり、ひたすらサバイブする毎日だった。帰国後はEV・MaaS関連の事業開発や全社バッテリー戦略を担当する中で、上司から「カーボンクレジット事業開発タスクフォースに入ってほしい」と声がかかった。まさか入社当時に熱望していた分野に、10年以上たって舞い戻るとは思ってもいなかった。

このタスクフォースで一緒に働いた方々は、今や日本のカーボンクレジット業界を牽引する存在ばかり。当時は気づかなかったが、
とてつもなく恵まれた環境だったと思う。その後、早稲田のビジネススクールに通い、多様な価値観に触れるなかで「人生一度きり、起業にトライしたい」と考えるようになった。

三菱商事は本当に最高の職場だったが、自分の想いを形にすべく、2022年にexroadを立ち上げた。
今は、カーボンクレジットに関連する企業のリサーチ・ワークフローの高度化を支援し、気候変動対策を後押ししている。

こうして振り返ると、紆余曲折はあったものの、不思議と一本の線が引けるような道を歩んできたように思う。これからも、自分なりのやり方で、日本経済の活性化と地球の未来に貢献していきたい。

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